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短くはあったが、激しい戦いが終わった。太陽系の外から侵入した彗星コアトルは、地球に代わって惑星として存在するという野望を抱いていた。そのコアトルの野望を阻止すべく、内部戦士、外部戦士が終結して戦ったのだった。 全戦士の力を借り、プリンセスの力をもってすれば、戦いの元凶となるコアトルを破壊することもできたはずだった。だが、プリンセスはコアトルを地球から遠くに追いやるだけでとどめた。 「5000年後に、またコアトルが現れたなら、また戦うわ。憎しみも、悲しみも、生も死も、すべてがここにあるのだから」 戦いの後、笑顔でプリンセスは答えた。元凶となったコアトルまでもがこの宇宙の一部だと、プリンセスは言いきった。強い人だと思った。 戦いの舞台となったかぐや島に、その夜は留まることになった。この島に向かう途中に船は破壊されていたので、薪を拾い、岬からＳＯＳの合図を送った。近くを通りかかる船に発見されるまで、ツアーに参加した僕たち10人はこの島に滞在するしかなかった。 もっとも激しい戦闘の行われた神殿跡を、食事の後の寝所とした。宮殿だけあって、部屋は十分に用意されていた。うさぎは衛さんと、美奈子ちゃんとレイちゃん、まこちゃんと亜美ちゃん、せつなさんとほたる、そしてみちると僕とがそれぞれ同室することになった。 街の灯のない島の夜は早かった。僕たちは早々に床に就いた。 「眠れないの？はるか」 すでに眠っていたと思っていたみちるが、突然そっと声を掛けて来た。 「…うん。色々、考えていた」 「色々？」 僕はうなずいた。 「僕はやっぱり、汚いんだな、と思って」 「何のこと？」 僕は、今日の戦闘を思い出した。 「仔猫たちを殺らねば、この地球は滅びるぞ！」 戦いの最中、僕は叫んだ。目の前にいる３匹の仔猫には暗黒水晶の種が埋め込まれている。暗黒水晶の種が開放されたとき、地球は滅亡の危機に瀕する。その危機を回避するためには、目の前にいる仔猫たちを敵の手に渡さず、殺すしかなかった。その他に、選択の余地はなかった。 「そんな…！」 セーラームーンは、言葉を失った。何の罪もない、無邪気な仔猫を殺すことなど、彼女にできるはずがなかった。 「大丈夫」 そう言って、僕は笑った。 「あなたの手は…汚さない」 ただ、プリンセスを苦しませたくなかった。この子たちを殺すのは、僕の役目だった。 かつて、経験したはずだった。世界を沈黙から救うために、純粋な心を持った人間を探し、その心を奪おうとした。破滅の戦士たる土萌ほたるを殺そうとした。他に手段がないのなら、この手を汚すくらいの覚悟はとうにできている…はずだった。 だが、僕が手を下す前に、仔猫たちはプラズマンの手によって殺された。仔猫たちをプラズマンに渡してはならない、そのことは十分に承知していたはずなのに、そして、僕が仔猫たちを殺さなければならなかったはずなのに、そのこともわかっていたはずなのに、それなのに、仔猫たちが殺された瞬間、僕は密かに安堵した。 仔猫たちの死の瞬間、あの子たちは母親に会うことができた。5000年ぶりの再会。でも僕は、その様子を見ていることができなかった。ただひたすら、自分自身の身勝手さをかみ締めていた。 闇の中で、僕たちは向き合って座っていた。みちるはそっと僕を抱きしめてくれた。 「僕には結局、覚悟なんて全然できていなかったんだ。だから、こんなに弱くて、こんなにも汚い…」 みちるの腕に、少し力が入った。そして、静かにささやいた。 「はるか。私も同罪よ」 「同罪？」 「そう。あの瞬間、はるかがあの子たちを殺さなくて済んだ瞬間、私もほっとしたの。私はやっぱり、あなたの手を汚したくない、そう思ったわ。でも…」 そう言ってみちるは抱きしめていた僕の体をそっと離し、吐息がかかるくらい近くに顔を寄せた。 「でも、手を汚さなかったことで、心を傷つけるのはやめて。ね、はるか…」 「…大丈夫だよ、みちる。僕は傷ついたりしない。僕には…それだけの資格もない」 耳を澄ますと、遠くに潮騒が聞こえた。木々のざわめきも聞こえる。 闇の中で、みちるが少し泣いたようだった。僕には、それが辛かった。 |