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シルバーミレニアムを襲った最大の危機は去った。セーラームーンと、彼女を護る４人の戦士、そして未来のキングとなるタキシード仮面たちは、本来あるべき場所に戻ることになった。 プルートが用意した時空の扉をくぐり、21世紀に旅立ってゆく。 「あなた達は、一体誰なんですか」 まだ幼い、未来のネオ・クィーン・セレニティである少女が尋ねた。 「僕たちは外部太陽系戦士」 答えて四人の守護神たちを見遣る。彼女達もまだ幼く、完全に力を目覚めさせてはいないはずだ。 「君たちがプリンセスのそばで彼女を護り、僕たちが太陽系の外部で、外からの侵略者に備える…それがシルバーミレニアムのあるべき姿だ」 ヴィーナスが首をかしげる。 「あなた達は、この30世紀の戦士たちなんですか」 「そう。私たちは貴女の…ネオ・クィーン・セレニティの治める世界に生きる者」 ネプチューンの言葉に、未来のセレニティが期待を込めた目で僕たちを見た。 「じゃあ、いつかまた会えますか」 「ええ。あなたたちが21世紀に戻って、しばらくしたらまた会えるわ」 ネプチューンがそう答えると、セーラームーンはうれしそうに笑った。僕は…そんな彼女たちから目を逸らした。 「では、そろそろよろしいですか」 プルートが彼女たちをうながした。彼女らはうなずいて、時空の扉に向かった。 「じゃあ、また。ウラヌス、ネプチューン、プルート、サターン！」 プルートが扉をそっと閉めた。 ネプチューンが軽く息をついた。 「彼女達の記憶を消すの、プルート？」 「私にはそれだけの力はありません。ですが、ネオ・クィーン・セレニティなら…」 今回の事件は、本来あるべきではなかった。僕たち外部太陽系戦士とセーラームーンたちはまだ出会うべきではなかった。セレニティはきっと、彼女達から僕たちに関する記憶を奪うだろう。そうして２１世紀で、僕とネプチューン、そしてプルートやサターンたちと初めて出会うことになる。 僕たちはしばらく黙っていた。だが、シルバーミレニアムの危機が去った今、いつまでもここにとどまるわけにはいかない。 「僕たちも、あるべき場所に戻ろう」 ３人はうなずいた。 一度冥王星に向かい、そこからそれぞれの星に戻り、また太陽系の外からの敵に備えなければならない。それは本来あるべき僕たちの姿だ。 無言で僕たちは、時空の扉をくぐった。 一瞬の間もなく、冥王星に到着した。 ここで、僕たちは別れる。 「また会えて良かった、はるかパパ、みちるママ、せつなママ」 サターン…ほたるがそう言って笑った。 僕たち４人は、シルバーミレニアムが再建し、それぞれの星の守護を任じられた時、全員が記憶を封印されることを拒んだ。あの日、せつなさんは、「似たもの親子ということですね」と言って笑い、そして泣いた。彼女の涙を見たのはあのときが初めてで…そして最後だった。 ここで、僕たちは別れる。 「もう…会えないよね」 シルバーミレニアムが永遠の時を刻む限り、こうして僕たちが再び出会うことはない。あるとすれば、今回のようなシルバーミレニアムの存亡を賭けた戦いの時だけ。僕たちがそれを望むことなどできない。 「今からでも、クィーン・セレニティにお願いすれば、記憶を封じていただけるはずよ、ほたる」 せつなさんが言うと、ほたるは激しく首を振った。 「そんなの、絶対に嫌。だってそんなことをしたら、私がほたるだった時のことが全部嘘になってしまう気がする。それに、私はみんなのことを忘れたくない」 「分かっているよ」 うなずいて、頭に手を置いてやると、ほたるは泣きそうな顔で笑って見せた。 ｢じゃあ、行くね。…さよなら、はるかパパ、みちるママ、せつなママ」 一度だけ手の甲で目を覆ってから、サターンは笑って自分の星へと帰って行った。 その姿を見送って、僕はみちるに呼びかけた。 「僕たちも、帰ろうか」 一瞬、みちるの瞳が揺れた。が、静かにうなずいた。 「そうね」 せつなさんはこの場所で再び、時空の扉を護ることになる。僕たちはせつなさんに別れを告げて、それぞれの星からこの冥王星にワープしてきた場所に歩き始めた。 一度だけ振り返ると、遠くでプルートが頭を下げるのが見えた。みちると僕は、中途半端に挙げた手をわずかに振って、それに答えた。 少し歩いて、戦いの前にみちると会った場所に戻ってきた。 ここで、僕たちは別れる。 その時になって僕たちは、あまりに自然に互いの手を握っていることに気づいた。一体何度、こうやって僕たちは手をつないできただろう。 僕たちは僕たちの星に戻らなければならない。今ここで握った手を解けば、もう二度と僕の手は彼女の手に触れることはないかもしれない。 僕たちの使命は分かっている。…ここで、僕は彼女の手を離さなければならない。 ゆっくりと、僕たちは手を開いた。お互いの手の温もりを失った手が、わずかに宙をさ迷った。 「もう一度、会えて良かった」 「…それじゃあ、ほたると同じよ…」 「構わないよ」 僕が答えると、みちるは少し笑った。 「私たちは、もうきっと会うことができないわ。でも、私はずっとはるかのことを想っている」 「…僕だって、みちるのことを想っている」 みちるは少し、唇を噛み締めた。 「お願い。もう一度、私の名前を呼んで」 僕は軽く息を飲んだ。この星で僕たちが別れてから、そして今ここで別れてから経過するであろう長い年月。その長い年月、僕がみちるに話し掛けることができるのはこれが最後かもしれない。 「…みちる」 気持の全てを込めて、僕は彼女の名を呼んだ。みちるは目を閉じて、そして泣き笑いの表情になった。 「ありがとう、はるか。これで私は、あなたのことを想いながら生きていくことができる」 「うん…」 僕たちはしばらく、黙って抱き合った。お互いに、少し泣いたと思う。 ここで、僕たちは別れる。 そっと互いの体を離した。みちるの瞳に涙が浮かんでいた。一、二度目をしばたいて彼女は無理に笑ってみせた。 「じゃあ、行くわ」 僕はうなずいた。 「さよなら…ウラヌス」 「さよなら…ネプチューン」 ネプチューンは、自分の護るべき星に帰っていった。 「みちる」 その後姿を見送って、僕はそっと彼女の名を呼んだ。その名を忘れないように、その想いを忘れないように。 僕は顔をあげた。そして、僕が本来あるべき星へと跳んだ。 |